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大阪高等裁判所 昭和31年(ラ)150号 決定 1961年7月15日

抗告人 協同組合日本華僑経済合作社

相手方 呂偏順

主文

原決定を取消す。

本件を神戸地方裁判所に差戻す。

理由

本件抗告理由の要旨は、

(一)  本件強制管理の目的たる別紙目録記載の不動産は、左記の理由により相手方(債務者)呂偏順の所有であつて、第三者たる華僑信用金庫の所有とはいえない。即ち、本件物件については、抗告人を債権者として昭和三一年三月七日付仮差押登記及び同月一九日付強制管理申立登記が存するところ、華僑信用金庫(以下単に金庫と呼称する)はこれに先立つ昭和二九年五月一二日付を以て同月一一日の売買予約を原因とする所有権移転請求権保全の仮登記を経由したが、昭和三一年四月七日付を以て同日の権利放棄を原因として右仮登記を抹消し、新たに同日付を以て昭和二八年一二月二八日の代物弁済を原因として当時の所有者たる相手方より所有権移転登記を受けた。ところがその後昭和三一年四月一一日付を以て、さきの仮登記の抹消は錯誤によるものとして右仮登記の回復登記を受けると共に、同日付で右所有権移転登記の登記原因につき「昭和二九年五月一五日売買、但し昭和二九年五月一二日受付第六九〇〇号所有権移転請求権保全の仮登記についての本登記である」の更正登記を受けた。しかし相手方と金庫との間においては、前記昭和二九年五月一二日付仮登記をしたことはあるが、とれによつて担保せられた債権は相手方の友人たる訴外游火の金庫に対する手形債務の保証債務であつて、相手方自身の借入れた債務ではなく、右所有権移転の本登記は、右訴外人の手形書換のために相手方が送付した印鑑を擅に金庫が冒用して為したもので、相手方としては関知するところではなく、所有権を移転する意思を有していなかつたもので、登記原因を欠くから無効であり、仮りに所有権移転行為があつたとしても、金庫はその所有権取得を以て抗告人に対抗し得ないものである。何となれば、金庫は右所有権移転の本登記の順位をさきに回復した仮登記によつて遡及せしめようとするが、右仮登記の登記原因たる権利はさきに一且放棄されているから、擅にその放棄意思表示の撤回は許されず、利害関係人の存するときは猶更であり、これが錯誤に基くことは認められず、少くとも要素の錯誤ではなく、仮りに錯誤としても金融機関たる金庫としては権利放棄として仮登記を抹消し、同時に抵当権登記まで抹消するが如きことは甚だしい軽卒であるから重大な過失があり、第三者たる抗告人には対抗できず、また錯誤を理由として仮登記の回復登記及び本登記の原因変更登記をするためには登記簿上の利害関係人の承諾又はこれに対抗し得べき裁判が必要であるにも拘らず、利害関係人たる抗告人は右の承諾を与えたことはないから、右回復登記、変更登記は無効であるか少くとも抗告人に対抗できないものであるから、前記所有権移転の本登記は右仮登記と関連せしめることはできず、抗告人の仮差押、強制管理の登記に後れるものとして、金庫は抗告人に対し、その所有権を以て対抗し得ない。仮りに右仮登記の回復登記が有効であり、本登記が右仮登記に関連するものとしても、右仮登記は売買予約を原因とする請求権保全の仮登記(不動産登記法第二条第一号)であつて物件保全の仮登記(同条第一号)でないから、この仮登記によつて保全される物権変動の本登記の対抗力は、当該物権変動の生じたとき即ち請求権の実現すべかりし履行期まで遡及するに止まるところ、本件物件につき金庫が所有者となつたとしても、それは昭和三一年四月七日以後(金庫は抗告人に対し、右同日売買予約完結意思表示をした旨第三者としての陳述をした)であつて、それ以前ではあり得ないから、本件における所有権移転の対抗力も右日時以前には遡らず、従つてその以前に登記を経た仮差押債権者たる抗告人に右所有権取得を主張し得ない。

(二)  仮りに本件強制管理につき手続の開始を妨げる事実があつたとしても、一旦開始された手続を取消すためには、特別の事情があり、かつ登記官吏からの通知が必要であり、また裁判所は債権者に対しその障碍の消滅したことを証明すべきことを命じなければならないのに拘らず、右何れの要件をも充足することなく本件強制管理開始決定を取消したことは違法である。

というに在る。

よつて按ずるに、本件物件につき抗告人の主張する抗告人のための仮差押及び強制管理申立の登記、第三者たる金庫の権利に関する抗告人主張の各登記が存することは抗告人提出の甲第一号証(昭和三一年六月二六日付登記簿謄本)により明らかであるところ、仮りに金庫において、更正せられた右本登記原因記載の通り、昭和二九年五月一二日付仮登記の登記原因(同月一一日付売買予約)に関連する同月一五日付売買の事実があつたとしても、右の仮登記はすでに一旦抹消せられたものであつて、その回復登記及び前記本登記原因の更正には、当時登記簿上の利害関係人であつた登記した仮差押債権者たる抗告人の承諾又はこれに対抗し得べき裁判を必要とすることは、不動産登記法第六五条、第六四条、第五六条の明定するところであるに拘らず、本件においては右の承諾等のなされた証拠が見当らず、却つて甲第一〇号証、第一一号証の各一(登記申請書)の附属書類欄によれば、何等かゝる承諾書等の添付なくして登記がなされたことを窺うに難くないから、右の回復登記及び更正登記は共に無効と解せざるを得ないことは、前記法条所定要件が単なる登記申請の要件に関するものでなく、登記自体の要件に関するものであることから、多言を要しないところである。そうすれば前記所有権移転の原因事実に符合し、かつ抗告人に対抗することを得べき本登記はいまだなされていないものといわねばならない。

そして前記登記簿に記載された他の本登記原因(一旦更正により抹消されたもの)は昭和二八年一二月二八日の代物弁済を原因とする昭和三一年四月七日の本登記(仮登記によつて順位保全せられないもの)に過ぎないことは明白であるから、かゝる原因行為が存在するとしても、その以前に仮差押及び強制管理申立の登記を経た仮差押債権者たる抗告人に対し、金庫はその所有権取得を以て対抗し得ないものであることは見易いところである。そうすれば抗告人は依然として相手方を物件所有者として仮差押の執行管理手続を続行し得べきことはいうまでもない。

よつて他の抗告理由につき審査するまでもなく、本件物件が昭和二九年五月一五日相手方から金庫の所有に帰したことを理由として強制管理開始決定を取消し強制管理申立を棄却した原決定は失当であるから、これを取消すべきものとし、強制管理手続続行のために事件を原裁判所に差戻すを相当とし、主文の通り決定する。

(裁判官 吉村正道 宮川種一郎 大野千里)

目録

神戸市生田区栄町通二丁目四六番地上

家屋番号 四三番

一、石及練瓦造三階建事務所 一棟

建坪  六二坪六合

二階建 六三坪三合

三階建 六一坪九合

地下室 五八坪六合

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